Wise Words:ゲイリー、最後の言葉
2006年12月6日心霊破、アクローマ、ゴブリンの雪だるまなどなど、紫色の連中と一緒に俺自身もタイムシフトした気分だ。一度スタンダード落ちしたカードがたまに帰ってくることもあるが、俺の場合は過去の遺物が溜まった墓場から、いきなり放り出された感じだな。
Scott Johns に、もう一度だけWise Wordsを執筆してくれないかと持ちかけられたとき、それも面白いと思って、書く内容も特に考えないままに引き受けてしまったが、時間がたつにつれて、俺が最後に書くMagic: The Gathering の記事がどんな影響を与えるか考えさせられるようになった。締めというか、達成感という感じがある。俺はかつてWise Wordsで、読者にさようならとか、今までありがとうとか書いたことはなかった。だが今なら喜んでそうしよう。
なぜ俺がこのゲームを離れるかについて説明させてもらおう。俺がゲームの文化にどっぷり嵌まるとともに、マジックが俺にとって単なるゲームの枠を超えた。プロツアーに向けて、生活のすべてを捧げ、たくさんのなすべき物事を放ってきた。これほどまでにマジックとプロツアーにこだわったことは間違いではないと思っているが、やりすぎていいことは何一つない。
英国に移った後、マジックに対する情熱が日々冷めていくのがわかった。もうそれは仕事になっており、張り詰めた競争の日々が純粋にゲームを楽しむ心を奪っていった。インターネットの掲示板も心労の種で、プレイングや人間関係をも蝕む。すべてのきっかけは2002年の世界選手権でCole Swannackと当ったときだった。
Coleは若干13歳の子供で、会場が彼のホームグラウンドということもあったため、フィーチャーされると30人ほどのギャラリーが囲んだ。マッチが進むにつれ、Coleが技術的な点においてトーナメントのプレイに不慣れなのが見て取れるようになってくる。遅いプレイングに一度ならずジャッジを呼ぶことを考えたが、俺は大人気ない振る舞いで子供の夢を壊すような真似はどうしてもできなかった。それ以来、第一線でプロとして戦い続けるという気概を失っていったことを覚えている。
それでも、俺の当時の生活はマジックの収入にかかっていた。他のことをやろうという気にもならなかったので、この世界に執着したともいえる。だがプロツアーのたびに勝利への執念は消えうせ、人間関係もぞんざいになり、成績は凋落の一途をたどった。この世界に俺を括り付けていたのは未知への恐怖で、それから逃げるような真似を続けてきた。
そして負けが込むにつれ、金も底をつく。かつては全て賞金で賄うことができた遠征費用だが、もう記事の執筆活動だけでは足りず、効率の悪い仕事に精を出さなければならない羽目になった。英国に移ると、弱り目に祟り目で、無名の連中に負け続けて不名誉な記録を作り(移って6日目の大会だ。わかると思う)、SARS感染のための強制隔離まで喰らった。トラウマが募り、もうこのままでは俺の人生にいいことなんてないと思うようになった。変化が必要だったんだ。
無一文で、情熱もなくし、途方にくれた俺は、2004年のサンフランシスコを機に引退した。その後数ヶ月間「普通の」会社で働いたが、事態は悪くなるばかりだ。もう俺の人生は終わりだとも思った。ゲームの楽しさは俺のかつての経験によって失われており、競技から長らく遠ざかっていることもあって、この世界に戻る気にはなれなかった。
親友が俺にウェブサイトを作ってはどうかと持ちかけた。俺はポーカーの業界に入り、週80時間労働して、20代のとき働かなかった分を穴埋めした。今回のパリ行きは、2006年に入ってから取れた最初の休みだ。素晴らしい休暇だったと思う。
プロとしての成功を考えず、ウェブサイトを立ち上げることと会社での労働は俺に新たな生きる目的を与えてくれた。朝ベットから跳ね起きて夜までキーボードにかじりつくことに意味がある。仕事とプロ意識は、俺にとって永らく欠けていた精神的な安定をもたらした。俺と世界の関わり方が文字通り変わったと感じるようになった。
マジックをやっていたときの俺と、今の俺とは別人だ。まだ物事について深く考える方だが、もう感情的な言動は控えている。物事にあまり批判的ではなくなり、他人を理解しようとする姿勢が身に付いたと思う。この成長によって、現役でプレイしていた頃には見えていなかった物が、今こうして世界選手権でプレイしたときにわかってきた。
2年間でこの世界がどれだけ変わっただろうか。俺は年齢、場慣れと同時に疎外感を感じつつも、羨望と尊敬を受け、そしてたくさんの人から温かく迎えられた。The Hall of Fameのセレモニーは素晴らしい体験で、昔から歩いた道のりと労いの言葉はかつて味わったことのない誇らしさを感じさせてくれる。旧友と再会したとき、苦難の時期にも良いことがあったのを思い出した。もちろん、こういう扱いを受けて嫌な思いをするはずがない。
俺はナポレオンホテルに滞在している。パリの旧市街にあって、この世でもっとも美しい場所の一つだ。晩餐をご馳走になり、今まで見たこともないような素敵な指輪をもらい、この世界に戻るときはいつでもゲスト料を受け取れる。期限は終身だ。かつてはプロツアーに出る資格を得るために四苦八苦していたのに、いまや労せずして権利がある。なんと素晴らしいことだろう!
往事に比べ、今はもっと洗練されている。プレイングのレベルは段違いだ。MOのお陰で、もはや世界選手権で楽に勝てるマッチはない。それだけ練習しているという証だろう。この手の連中は、感覚を掴むためにリアルでマジックをする必要があるが、生の相手とカードを見ても、MOと何らゲームそのものは変わらないと思うだけだろう。ジャッジもきちんと仕事をしている。Jaap Brouwer以下、スタッフは好ましからざる連中の一掃に尽力している。
カードもまた、より素晴らしく、より質の高い物になってきている。セットは複雑で考えさせられるものばかりだ。マジック10周年を迎え、これまでの道程を振り返るとき、殿堂は偉大なプレイヤー(それとやかましいライター(*注:ゲイリー自身?))をいつまでも記憶に残してくれる。日々新しい進歩が繰り返されるが、古い物が決して忘れ去られることはない。かつて俺がやっていたことを今もやっているなら、それはもう時代遅れというやつだ。
この世界に戻るのはちょっとした試練だ。仕事が非常に立て込んでいて、今後52週間に28回の出張があるため、そうそうプロツアーに出てもいられない。だが、これまでよりも顔を出す機会は増えると思う。殿堂入りの手紙一通によって大きく変わった。俺自身の矜持を懸けて言うが、ここに来るまでの道程は俺自身の力で歩んできた。
マジックとプロツアーが今の俺自身を作った。文章の書き方はライティング&ゲーマーズとイベントのカバレッジで学んだ。俺が日々記事にしていたプレイヤーのテクニックや情報は、今でもポーカーで役に立っているし、ビジネスの場でも自信を与えてくれる。マジックから学んだことが、今の俺の全てなんだ。
Wise Wordsの読者諸兄に、これまで応援してくれたことの礼を言いたい。Wise Wordsはいつも俺に生きる目的をくれた。俺の書いた全てが役に立ったとは思わないが、記事が助けになったとか、物の見方を変えたとか言ってくれるたびに、それは俺にとって心温まる励ましになった。また、読者の信頼を裏切らないよう、持て余した力をネガティブな方向に使わないための抑止にもなった。長い人生の一時ではあるけれど、今の俺は幸せで健やかだ。そして、お前たちは、俺にとっての試練の間も支えてくれた。この幸運に恵まれなければ、俺はもう生きていけなかったかもしれない。
俺からの最後の言葉だ。俺の経験から学んでくれ。マジックは偉大なゲームではあるが、本当に楽しむことができるのは、自分の生活とうまくバランスを取れている間だけだ。ゲームと他の大事なことを、両方とも大切にできたなら何もかも上手くいく。もしお前が他の物事に目を向けたなら、このゲームと、それに携わる人達についてより多くを学ぶことができるだろう。では、お身体ご自愛を。そして、どうもありがとう。
Gary Wise
http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/gw1
Scott Johns に、もう一度だけWise Wordsを執筆してくれないかと持ちかけられたとき、それも面白いと思って、書く内容も特に考えないままに引き受けてしまったが、時間がたつにつれて、俺が最後に書くMagic: The Gathering の記事がどんな影響を与えるか考えさせられるようになった。締めというか、達成感という感じがある。俺はかつてWise Wordsで、読者にさようならとか、今までありがとうとか書いたことはなかった。だが今なら喜んでそうしよう。
なぜ俺がこのゲームを離れるかについて説明させてもらおう。俺がゲームの文化にどっぷり嵌まるとともに、マジックが俺にとって単なるゲームの枠を超えた。プロツアーに向けて、生活のすべてを捧げ、たくさんのなすべき物事を放ってきた。これほどまでにマジックとプロツアーにこだわったことは間違いではないと思っているが、やりすぎていいことは何一つない。
英国に移った後、マジックに対する情熱が日々冷めていくのがわかった。もうそれは仕事になっており、張り詰めた競争の日々が純粋にゲームを楽しむ心を奪っていった。インターネットの掲示板も心労の種で、プレイングや人間関係をも蝕む。すべてのきっかけは2002年の世界選手権でCole Swannackと当ったときだった。
Coleは若干13歳の子供で、会場が彼のホームグラウンドということもあったため、フィーチャーされると30人ほどのギャラリーが囲んだ。マッチが進むにつれ、Coleが技術的な点においてトーナメントのプレイに不慣れなのが見て取れるようになってくる。遅いプレイングに一度ならずジャッジを呼ぶことを考えたが、俺は大人気ない振る舞いで子供の夢を壊すような真似はどうしてもできなかった。それ以来、第一線でプロとして戦い続けるという気概を失っていったことを覚えている。
それでも、俺の当時の生活はマジックの収入にかかっていた。他のことをやろうという気にもならなかったので、この世界に執着したともいえる。だがプロツアーのたびに勝利への執念は消えうせ、人間関係もぞんざいになり、成績は凋落の一途をたどった。この世界に俺を括り付けていたのは未知への恐怖で、それから逃げるような真似を続けてきた。
そして負けが込むにつれ、金も底をつく。かつては全て賞金で賄うことができた遠征費用だが、もう記事の執筆活動だけでは足りず、効率の悪い仕事に精を出さなければならない羽目になった。英国に移ると、弱り目に祟り目で、無名の連中に負け続けて不名誉な記録を作り(移って6日目の大会だ。わかると思う)、SARS感染のための強制隔離まで喰らった。トラウマが募り、もうこのままでは俺の人生にいいことなんてないと思うようになった。変化が必要だったんだ。
無一文で、情熱もなくし、途方にくれた俺は、2004年のサンフランシスコを機に引退した。その後数ヶ月間「普通の」会社で働いたが、事態は悪くなるばかりだ。もう俺の人生は終わりだとも思った。ゲームの楽しさは俺のかつての経験によって失われており、競技から長らく遠ざかっていることもあって、この世界に戻る気にはなれなかった。
親友が俺にウェブサイトを作ってはどうかと持ちかけた。俺はポーカーの業界に入り、週80時間労働して、20代のとき働かなかった分を穴埋めした。今回のパリ行きは、2006年に入ってから取れた最初の休みだ。素晴らしい休暇だったと思う。
プロとしての成功を考えず、ウェブサイトを立ち上げることと会社での労働は俺に新たな生きる目的を与えてくれた。朝ベットから跳ね起きて夜までキーボードにかじりつくことに意味がある。仕事とプロ意識は、俺にとって永らく欠けていた精神的な安定をもたらした。俺と世界の関わり方が文字通り変わったと感じるようになった。
マジックをやっていたときの俺と、今の俺とは別人だ。まだ物事について深く考える方だが、もう感情的な言動は控えている。物事にあまり批判的ではなくなり、他人を理解しようとする姿勢が身に付いたと思う。この成長によって、現役でプレイしていた頃には見えていなかった物が、今こうして世界選手権でプレイしたときにわかってきた。
2年間でこの世界がどれだけ変わっただろうか。俺は年齢、場慣れと同時に疎外感を感じつつも、羨望と尊敬を受け、そしてたくさんの人から温かく迎えられた。The Hall of Fameのセレモニーは素晴らしい体験で、昔から歩いた道のりと労いの言葉はかつて味わったことのない誇らしさを感じさせてくれる。旧友と再会したとき、苦難の時期にも良いことがあったのを思い出した。もちろん、こういう扱いを受けて嫌な思いをするはずがない。
俺はナポレオンホテルに滞在している。パリの旧市街にあって、この世でもっとも美しい場所の一つだ。晩餐をご馳走になり、今まで見たこともないような素敵な指輪をもらい、この世界に戻るときはいつでもゲスト料を受け取れる。期限は終身だ。かつてはプロツアーに出る資格を得るために四苦八苦していたのに、いまや労せずして権利がある。なんと素晴らしいことだろう!
往事に比べ、今はもっと洗練されている。プレイングのレベルは段違いだ。MOのお陰で、もはや世界選手権で楽に勝てるマッチはない。それだけ練習しているという証だろう。この手の連中は、感覚を掴むためにリアルでマジックをする必要があるが、生の相手とカードを見ても、MOと何らゲームそのものは変わらないと思うだけだろう。ジャッジもきちんと仕事をしている。Jaap Brouwer以下、スタッフは好ましからざる連中の一掃に尽力している。
カードもまた、より素晴らしく、より質の高い物になってきている。セットは複雑で考えさせられるものばかりだ。マジック10周年を迎え、これまでの道程を振り返るとき、殿堂は偉大なプレイヤー(それとやかましいライター(*注:ゲイリー自身?))をいつまでも記憶に残してくれる。日々新しい進歩が繰り返されるが、古い物が決して忘れ去られることはない。かつて俺がやっていたことを今もやっているなら、それはもう時代遅れというやつだ。
この世界に戻るのはちょっとした試練だ。仕事が非常に立て込んでいて、今後52週間に28回の出張があるため、そうそうプロツアーに出てもいられない。だが、これまでよりも顔を出す機会は増えると思う。殿堂入りの手紙一通によって大きく変わった。俺自身の矜持を懸けて言うが、ここに来るまでの道程は俺自身の力で歩んできた。
マジックとプロツアーが今の俺自身を作った。文章の書き方はライティング&ゲーマーズとイベントのカバレッジで学んだ。俺が日々記事にしていたプレイヤーのテクニックや情報は、今でもポーカーで役に立っているし、ビジネスの場でも自信を与えてくれる。マジックから学んだことが、今の俺の全てなんだ。
Wise Wordsの読者諸兄に、これまで応援してくれたことの礼を言いたい。Wise Wordsはいつも俺に生きる目的をくれた。俺の書いた全てが役に立ったとは思わないが、記事が助けになったとか、物の見方を変えたとか言ってくれるたびに、それは俺にとって心温まる励ましになった。また、読者の信頼を裏切らないよう、持て余した力をネガティブな方向に使わないための抑止にもなった。長い人生の一時ではあるけれど、今の俺は幸せで健やかだ。そして、お前たちは、俺にとっての試練の間も支えてくれた。この幸運に恵まれなければ、俺はもう生きていけなかったかもしれない。
俺からの最後の言葉だ。俺の経験から学んでくれ。マジックは偉大なゲームではあるが、本当に楽しむことができるのは、自分の生活とうまくバランスを取れている間だけだ。ゲームと他の大事なことを、両方とも大切にできたなら何もかも上手くいく。もしお前が他の物事に目を向けたなら、このゲームと、それに携わる人達についてより多くを学ぶことができるだろう。では、お身体ご自愛を。そして、どうもありがとう。
Gary Wise
http://www.wizards.com/default.asp?x=mtgcom/daily/gw1
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